日本国内の通販企業のアジアにおける海外進出をあらゆる領域から支援するスタートアジア。今回は、海外での経験・ノウハウを活かし、日本企業の台湾進出を支援する山崎洋志さん(以下敬称略)に、台湾におけるLINEの活用事例や海外で成功するためのノウハウなどをクレッシェンドラボ日本支社統括・猪股唯耶が伺いました。
1. 「アジア」に展開するスタートアジア
── まずは自己紹介をお願いします。
山崎:2007年に新卒でファインドスターに入社し、それ以来ずっと同じグループで働いています。
入社から3年ほどで、ネット広告事業が軌道に乗り始めていたグループ会社のワンスター社にジョインし、クリエイティブの仕事に従事したのち、同社の役員・取締役に就任しました。
2014年に台湾法人であるスタートアジアが設立され、数年でクライアントの海外での成功事例が増加した流れを受け、グループとして海外展開を強化することになりました。私も海外滋養の一部を担当し、2016年よりタイに2年、その後マレーシアに1年、さらにそれから台湾に3年半、と拠点を移しています。
── 現在のスタートアジアのサービス領域を教えてください。
山崎:日本の通販企業様を中心に、台湾・香港・シンガポール・マレーシアなどへの海外への進出を全般的に支援しています。
サービス領域で言うと、輸入の申請、通販・物流サポート、コールセンターの立ち上げ、ECサイト・ランディングページ作成、広告宣伝、オンラインショッピングモールやドラッグストアへの品卸、テレビCM、マス広告など、全領域におけるサービスを行っています。最近では台湾のOEM会社を活用した化粧品や健康食品の企画製造の支援も実施しています。
また、特に力を入れているのはネット広告の領域で、現在弊社に在籍する100人ほどの従業員のうち、大体30〜40人はネット広告業務に携わっています。
── 広告運用にはどのようなプラットフォームが使用されているのでしょうか?
山崎:主にはGoogle、Facebook、LINEの3つです。案件によって違いますが、Google3~4割、Facebook4~5割、LINE2~3割くらいの割合で運用を行っています。
人口が多いとその国独自のプラットフォームやメディアが生まれる傾向にありますが、台湾のように人口2300万人ほどの市場では、世界的なプラットフォームのFacebookとGoogleが強い状況にあります。タイと台湾ではこれにLINEが加わり、三大プラットフォームとして活用されています。
2. 日本企業の台湾進出事情
── 日本の化粧品企業の台湾進出は、どのような方法が一般的なのでしょうか。
山崎:企業様の多くは、海外で商品を販売したいが具体的な方法が分からないというケースがほとんどで、その結果現地のディストリビューターに商品を買い取ってもらい、販売の全てを委託することが一般的です。
ただこのケースでは2つの課題があり、1つは知名度が比較的低い商品であれば、ディストリビューターが商品を取り扱ってくれないか条件があまり好ましくない、というものです。
もう1つの課題は、ネームバリューのある商品であっても、事業規模が拡大できないことです。ディストリビューター側がリスクを取って積極的な広告展開を実施するわけではないので、年間で数千万円規模の事業にしかならないことです。すでに日本国内で100億円以上の売上を達成されているような企業様にとって、期待を超えるような売上規模になる事例はほとんどない状況です。
中小企業と大手企業の両者にそれぞれ課題が存在する中で、弊社はD2Cモデルの活用により数億円や数十億円のビジネスを展開できており、このような事例は中々ないので、多くの企業様からお問い合わせをいただいています。
── 将来の展望はございますか。
山崎:アジアを代表するようなブランドをどんどん作っていきたいと思っています。
台湾での事例として、日本国内ではそこまで有名ではない日本ブランドを、台湾の女性なら8〜9割は知っている、と言われるまでに成長させたことがあります。
大企業であれば事例があるかもしれませんが、なかなか中小企業でアジア展開ができ、マーケットシェアが取れているところはありません。弊社のクライアント様では日本よりも海外での売り上げの割合が大きくなっているような事例もでてきており、中小企業様の海外事業支援という部分では珍しい事例を作れていると感じています。
台湾でこのようなブランドを作っていることが僕らの強みであり、実績・誇りでもあります。これからもこのような例を増やし、海外で100億、200億規模の事業を構築することが今の目標です。
台湾だけではその規模を作ることはなかなか難しいため、香港やシンガポール、マレーシアなどへもビジネスを広げていけたらと思います。メガヒット商品を台湾以外でも作れるかどうか、というのが私たちの挑戦でもあります。
── なるほど。聞いているだけでワクワクしてきますね。
山崎:海外に日本のブランドを広げていくって、もうそれだけで正直わくわくしますよね。実際課題も多いのですが、やはりとても面白いですしやりがいのある仕事です。
3. 台湾でのLINE活用事例とマーケティング事情
── 企業の台湾事業をサポートする中で、LINEを活用された経験や事例などございますか。
山崎:成功に繋がったLINE活用例を2つご紹介します。
1つ目の例はCRMとしての活用です。既存顧客にLINEの友だちになってもらい、その方々にキャンペーンを打つという施策を行いました。台湾では母の日や週年慶(セール期間)などの特定の時期に売上が集中する商習慣があります。デパートコスメなどにおいては、年間売上の7~8割をこれらの期間に依存していると言われているほどです。この商習慣を利用し、LINEを通じて効果的に既存のお客様にキャンペーン情報を提供することで、売上を伸ばすことに成功しました。
もう1つの例は、チャットツールを利用したリターゲティングです。購入を迷っているお客様に対して販促メッセージを送り、再購入に繋げることを目指しました。このアプローチにより、お客様の再購入率を向上させることに成功しました。
── LINEの友だち登録は、どのような導線を引くのですか。
山崎:いくつかの経路があり、ECサイトの商品購入後に表示されるサンクスページに、LINEの友だちに勧誘するバナーを貼っています。
また、Facebook、Twitter、メルマガ上で、既存顧客に対して「LINEの友だちになってくれたらこの商品がこれだけ安くなりますよ」と催促することで獲得を増やすような施策も行っています。
── 具体的にはLINEでどのようなコミュニケーションを取るのですか。
山崎:これだけ聞くと短絡的な施策と思われてしまうかもしれませんが、キャンペーン情報を中心にコミュニケーションを取っています。台湾はキャンペーンや割引への感度が特に高く、コンビニなどでも「飲料を2本買うともう1本プレゼント」などのキャンペーンを毎日のように見かけるほどです。そのため、母の日のシーズンや週年慶以外でもとにかくキャンペーンで注意を引く、ということがかなり重要になってきます。
また、同じ商品のまとめ買いをする方が多いのも台湾の大きな特徴です。化粧品であれば定期購入で7回、8回と続けることはほとんどありませんし、都度送料がかかってしまうという欠点があります。それが、まとめ買いであれば家族やお友達とシェアする分を含めて、7個、8個と購入いただけることもあり、コストとしても送料は1回で済むことになります。さらにまとめ買い用のセット商品にノベルティを付けることでお得感をより際立たせる、という施策も台湾では一般的です。
年間で何回か買っていただくことも重要ですが、しかるべき時に単価の高いものをしっかり買っていただく、という考え方がLINEでキャンペーンを行う際にも非常に重要になってきます。
また、CRMの媒体で言えば、台湾では日本と比べて紙のDMはほとんど効果がありません。メールの開封率も日本よりかなり低く、一方でSMSはしっかりと届きます。SMSは非常にポピュラーなツールで、多くの企業様が宣伝によく使われています。日本は比較的重要な連絡にSMSが使われますが、台湾では販促目的で使う企業様がかなり多いです。
── なるほど。日本だとSMSは高いというイメージがありますが、台湾ではいかがですか。
山崎:日本でもLP離脱防止向けのチャットコマースのツールを提供している会社が複数おりますが、こちらと同様のツールが台湾にも有り、それを活用しています。例えば、ランディングページに一定時間滞在した場合や、ページから離脱するタイミングに「お肌の診断をしませんか?」というようなバナーを表示させます。それをクリックすると肌診断のためにLINEの友だちに登録してくださいと表示されるので、友だち登録をしていただき、すると肌診断のコンテンツが表示され、コンバージョンに促す事ができます。
そこでコンバージョンが発生しなくても、後々販促メッセージを送ることでコンバージョンに繋げる、という施策も行っています。特に、単品リピート通販領域においては売り物が1つなので、コミュニケーションが取りやすく効果的な施策となっています。
── 先ほどのお話で登場したLINEのチャットツールは、どのようなシーンで活用されるのですか。
山崎:日本でもLP離脱防止向けのチャットコマースのツールを提供している会社が複数おりますが、こちらと同様のツールが台湾にも有り、それを活用しています。例えば、ランディングページに一定時間滞在した場合や、ページから離脱するタイミングに「お肌の診断をしませんか?」というようなバナーを表示させます。それをクリックすると肌診断のためにLINEの友だちに登録してくださいと表示されるので、友だち登録をしていただき、すると肌診断のコンテンツが表示され、コンバージョンに促す事ができます。
そこでコンバージョンが発生しなくても、後々販促メッセージを送ることでコンバージョンに繋げる、という施策も行っています。特に、単品リピート通販領域においては売り物が1つなので、コミュニケーションが取りやすく効果的な施策となっています。
── LINE施策の他に、コンバージョン獲得のために重要なポイントなどはありますか。
山崎:サイトの購入フォームのUIはコンバージョンにも直結することから、かなり重要だと考えています。例えば、メールアドレスの入力が1回だけなのか、確認含めて2回入力していただくのかというだけでもかなり違いがあり、2回だと離脱する確率が高くなってしまいます。
他にも、台湾では日本と異なりお客様が自分の郵便番号を知らないというケースも多いため、住所を入力していただき、郵便番号はシステムで自動入力するという対応をしています。
このように、コンバージョンにダイレクトに関わるような台湾独自の文化や習慣、マーケティングノウハウなどを日本の企業様にお伝えできることは、私たちの強みでもあります。
── うまくLINEを使いこなしてる企業様や事例などはございますか。
山崎:インフラに直結しているアカウントは強いと思います。弊社はまだできていないのですが、例えばクレジットカードで決済される度に即時にLINE経由で利用金額の通知を送る、という使い方は上手だと思います。
「〇〇円の支払いがありました」というような重要な情報を送ってくるアカウントは、なかなかブロックや友達解除できませんよね。広告がどんなに送られてきても、見ざるを得ないです。日本にも配送状況をLINEでお伝えするEC企業様が存在すると思いますが、こういったインフラに関わるアカウントから広告が送られてきた場合、見てしまう方が多いのではないでしょうか。
さらに単品リピート通販においても、定期の配送連絡などを全てLINEで全てやるということをあらかじめ伝えておくと、顧客IDとの連携もできますし、広告を打っても離れて行かないというメリットがあります。台湾ではこのようにインフラをうまく利用している企業様が多いです。
ちなみに、ECではないですが、弊社の勤怠システムはLINEと連携をされており、出勤や退勤、人事からのお知らせや部下の承認申請などが全てLINEを通して送られてきます。
4. 台湾進出を目指す日本企業へメッセージ
── 最後に、海外で物を売りたいという日本の企業様に向けて、メッセージをお願いします。
山崎:海外展開に取り組む際は、「本気度」が大事だと思っています。
簡単に儲かるという市場ではないので、じっくりと一定の期間をかけ、お客様をつくり、ブランドを構築し、事業を築き上げる覚悟が求められます。
また、日本での成功施策をそのまま海外で展開するだけでは成功には繋がりませんし、逆に完全に現地の手法を取り入れるだけでは、現地の「普通」になるだけですのでこれもまたうまくいきません。柔軟性と日本の堅実なビジネス手法を組み合わせ、海外でのローカルなアプローチを受け入れながら進んでいくこと、さらにCPO(顧客獲得単価)とLTV(顧客生涯価値)のバランスを考慮し、適切な戦略を立てることが重要です。
成功要素である資金、時間、そしてノウハウを組み合わせて、成功への道を切り拓いていってください。
本日は、台湾への事業展開を中心にお話させていただきました。皆様のご参考になることがあれば幸いです。