LINE Flontlinerとして、また株式会社ペンシルの代表取締役として、LINEマーケティングの第一線で活躍する倉橋美佳さん(以下敬称略)。ダイレクトマーケティング領域において顧客獲得からCRMまでのコミュニケーション設計を数多くの企業にご提案されています。今回は、LINE運用に関するご経験や、デジタルの進化にいかにして対応していくべきかを、クレッシェンドラボ日本支社統括・猪股唯耶が伺いました。
1. LINE Frontlinerとしての取り組み
── 倉橋さんのLINE Frontlinerとしての活動を教えてください。
倉橋:LINEの活用方法をインフルエンスする人たちを束ねるために企画されたLINE Frontlinerですが、私は1期生から在任させていただいてます。
主な活動としては、例えば企業様に訪問をしてLINE公式アカウントの活用方法についての勉強会開催や、noteなどのメディアを使っての発信を通じて、より多くの方々に理解を推進するということを行っております。
── LINE Frontliner内で倉橋さんの専門領域などはあるのでしょうか。
倉橋:はい。役割や専門領域があまり被らないようになっていて、例えば広告領域に強い方、店舗やエリアマーケティングに長けている方、さらにチャットボット等システムとの繋ぎ込みが強い方などもいらっしゃいます。
私は、EC領域でのLINE公式アカウント・LINE広告の活用などが専門領域です。広告運用からお友だち獲得、そこからCRMと、ワンストップのコミュニケーションを設計しています。
現在は1〜3期まで、計9名のメンバーがFrontlinerとして活動していますが、他の皆さんの活動を見ていると、上記以外にもセミナーを開催したり、書籍を出されたりなど幅広くLINE自体が広まるような活動をされています。
2. デジタル時代におけるマーケティングの進化
── ペンシルさんでは普段どのようなお取り組みをされているのですか。
倉橋:ペンシルはもともとウェブサイト制作専門の会社だったのですが、以前はウェブサイトを制作してそのまま、というケースが多くありました。そのため、ウェブサイトの効果や売り上げの実績などを適切に評価することができませんでした。
その経験から、いかにしてより付加価値のあるウェブサイトを制作し、売り上げに直接的に貢献できるのかという視点でコンサルティング活動を始めました。特にSEOやリスティングなど、検索エンジンからの流入ユーザーへのコンバージョン率向上に注力し、このような取り組みをしてきたのが最初の10年間くらいです。
また、この時期にECの急速な成長と、地元である福岡が通販アイランドと呼ばれるように単品通販の会社がたくさんあったことが重なり、私たちも通販支援事業をスタートしたことで、ペンシルにも大きな変化が起こりました。競合が多いインターネット通販の場合は、ただ検索を待つのではなく、広告を活用し、商品を販売することが多いため、広告領域にも力を入れることに繋がりました。
── オーガニックから広告まで、幅広い活動をされてきたのですね。
倉橋:はい。これらの経験を通して、どの時代やチャネルにおいても、研究開発型のアプローチが非常に重要であると気がつきました。売り上げを上げる方法や利益を生み出す方法を、研究に基づいて再現性の高い形で実現することが大切なんです。
今日ではABテストを行うことは一般的ですが、昔はそうではなく、PDCAを回して改善していくという仕組みも初期段階には存在しませんでした。純広告でも入稿すれば終わりとされるような中で、例えば4本のバナーを入稿すれば、均等に25%ずつ表示されて終わりという状態でした。
また、その後の段階においてもLTVやCPOなどよりもCPAが重視され、入口を効率的に獲得することに重点が置かれていました。しかし、配信側による広告の最適化を行うにつれ、入口の獲得は非常に重要な要素である一方で、購入後にリピートしないお客様が現れることにも気がつきました。
彼らが本当に満足しているのか、ファンは作り出せているのかといった疑問を解決するために、CRMの領域を考慮する必要があるという発想が生まれました。
現在では、私たちはそれをCEMと呼んでいます。カスタマーエンゲージメントをマネジメントする領域です。お客様が最初の入口からリピートして購入していくプロセス全体に対して、最適解を持ちましょう、そう提唱するようになりました。
── CRMではなく、あえてCEMと言うことに何か理由があるのですか?
倉橋:CRMのリレーションシップもすごく良い表現だとは思いますが、コミュニケーションの回数や、そこに対する反応みたいなことが必ず指標化されるように、取引先と相手、お客様と取引先のような、関係性を繋ぐことに重点を置いていると思うんですね。
一方で、エンゲージメントという言葉では何も言わなくても好きな状態であると思うんです。こちら側からアウトプットしていることに対してお客様から来ていただく、積極的にこちらから電話をかけたりはしないけど、なんとなく使い続けていたいと思われる。このような関係性を表現したかったので、リレーションではなくてエンゲージメントだな、と思ったのです。
── 広告の領域では、どのような考えが最適解とされているのでしょうか。
倉橋:例えば、広告を出したとして、お客様が離脱してしまうケースを考えます。この場合、「広告の印象が非常に悪い」といった「嫌な理由」による離脱を避けることが非常に重要です。
強烈な広告は、嫌な印象を持つ人を多く生みますが、購入する人も生み出すことがあります。例えば、女性向けの化粧品を考えてみましょう。もし広告がほうれい線を強調して「こんなふうになりたくない」というコピーをつけた場合、そんなものを見たくないと思う人もいれば共感する人もいます。
この例のように強烈なアプローチで注目を集める手法もありますが、一度の接触で商品を購入しないお客様が普通なので、2回や3回の接触で購入してもらうことを前提にした時、最初の接触で嫌われてしまうと、やはり購入の機会は減ってしまうことになります。
── 序盤から今後の可能性を断つような爆弾表現はやめた方がいいということですね。
倉橋:はい。広告表現的には弱くなる傾向があるのですが、それでも顧客は戻ってくれるわけです。また、これまでは「離脱イコールお客様でなくなる」という考えの企業さんも多かったのですが、これは間違っていて、離脱してもまだ顧客である場合があります。
例えば、既存のお客様で、今まで商品の定期コースを利用していた人が、引っ越しをきっかけに解約したとします。これまでは、そのような人に対して「もう嫌になったから解約したんだね」という解釈をしていたと思いますが、本来はそうではなく、まだ好きだが、やむを得ない理由で解約してしまったお客様も結構いらっしゃるのです。
一度つながった縁をどのように捉えるかによって、施策は大きく変わると感じています。今ではCRMやLTVの重要性が言われるようになり、個人と企業とのコミュニケーションやつながりをさまざまな企業が意識していると思います。
私たちも研究開発をしながら、エンゲージメントをどうやって高め続けられるか、そしてそれをキープできるかを提唱しています。今の段階では、そこが私たちの研究開発の焦点だと思っています。
3. オタクな研究チームによる「ヒューマナライズ」
── 研究開発というキーワードが何度か登場しましたが、御社にはデータ分析チームのようなものが存在するのでしょうか。
倉橋:はい、弊社にはヒューマナライズマーケティング研究室という研究部隊が存在します。ヒューマナライズという言葉は、人間のヒューマンとアナライズを組み合わせた意味を持っています。
私たちは、人が何かの意思決定をすることは非常に楽しいことだと考えています。商品を購入することや何かしようと決めることなど、そのような行為には喜びを感じるものですし、脳内でも肯定的な反応が起こるはずです。
そのような反応や脳の働きを分析して論理的に再現することができれば、個々の人にとって幸福な瞬間を多く創り出すことができるのではないかと考えています。私たちはそれを研究し、ヒューマナライズの領域に取り組んでいます。
── 具体的にはどのような分析をしているのですか?サイト上のカーソルの動きを分析したりなどでしょうか?
倉橋:さまざまな分析手法を使用しています。カーソルの動きはもちろんですし、他にも滞在時間などを観察することもあります。また、購入した人と購入しなかった人を比較するために、それらの要素を分析します。
さらに、分析の結果をもとに、ページ内の各ブロックがどのように購入に寄与しているかを分類し、購入に寄与するコンテンツとそうでないコンテンツを特定します。それらのバランスを微調整し、結果を評価することも行っています。
── もう脳科学の世界ですね。オタクぶりを感じます。(笑)
倉橋:本当にオタクがすぎるというか、通常だったら広告のクリエイティブや運用の仕方にフォーカスしがちなんですけど、それって実は人に接してる面がすごく少ないんですよね。
でも、例えばお店で接客を受けて、思わず高いものを買っちゃった場合ってお店に入るまでのマーケティングよりも入ってから受けた接客の方が影響値が大きいんですよ。なので、そこを科学的に、「ウェブサイトを見てるうちになんか買いたくなっちゃって、買っちゃった!」ということが起こせたらこんな面白いことはないなと。
サイトをみているうちに買いたくなったり、1回離脱したけれどやっぱり買いたいと戻ってきた、というような状況を作り出すことは、Web制作から始まった私たちだからこそできることだと思っています。
── 聞いているこちらまでワクワクしてきます。御社の人材はどのように採用を?
倉橋:結構オタク気質の人を採用していますね。何かしらのこだわりが強い人。みんな良い意味でめんどくさいですよ。(笑)
基本的に研究室のメンバーが研究を行うんですが、それ以外のスタッフもだいたいオタクです。「頑張らないと研究チームを驚かせられない!」と、みんな何かしら情報を集めたり掘り下げたり、お互いに高め合っている感じですかね。みんなが知らないことを伝えたい、結構そういう気質があります。
4. LINEマーケティングに関する取り組み
── LINEマーケティング関連でここ最近増えてきたニーズやトレンドはありますか?
倉橋:LINEは、今までは広告の入口として使われていることがほとんどでしたが、ここ数年でコミュニケーション重視に発展し、情報提供としての役割も担ってくるようになりました。
また、コロナ禍になりデジタルシフトが一気に進んだり、スマートフォンを使う時間が長くなったことで、生活の中で占めるLINE使用の割合が増えましたが、そこに対してアプローチしたいという企業さんも多くなってきました。
これまでは一斉にユーザーを集めて一斉に配信するという使い方がオーソドックスでしたが、現在は個人との対話の場所だったりとか、コミュニケーションのツールとして使うケースがかなり増えていると実感しています。
LINEが日本のデジタルマーケティング領域の方向性を引っ張ってきている以上、それに合わせてクライアントさんの意識もすごく進んできているし、何より普段から生活を送る上でLINEが必須になっている人が多いので、LINEへの重要度は年々上がってきていますね。
── 実際に御社はLINEという領域でどのようなサポートをされているのですか?
倉橋:アカウントの開設から広告の運用、公式アカウントの運用をさせていただいています。新しいお客様が入ってきた後のCRMとして、一斉送信ではない、個人レベルでのコミュニケーション設計も行っています。
リッチメニューの内容の検討やレスポンスの検証、購入から何日後に接触するかなどのコミュニケーション設計、どうやって自社サイトやコンテンツを見てもらうか、など基本的に、全体を見ることが多いです。
Webサイトやモバイルサイト、アプリ、電話受付、チャットなど色々な受付手段があると思うのですが、その中で今はLINEのミニアプリを検討している企業さんも増えています。
そこで、ミニアプリを使って会員制度をどう再現するかとか、今の公式アプリとの違いをどういうふうに作っていくかの設計などもご相談が多いです。
── 今この時代におけるLINEの公式アカウントの最大の利用価値はどこにあると思いますか。
倉橋:まずは、これだけ幅広い世代が使っているツールが他にないということがあります。リテラシーの差がほとんどなく、年代地域を問わず使われていることに大きな価値があると思います。
シニアのマーケティングもやっているのですが、新しいことに対するハードルってすごく高いし、拒絶する方も多い中で、LINEは活用しているという方も多いんです。
お客様の生活の中へ入り込んで、その入り込んだ後にさまざまな機能を活用してもらえるという部分はとても活用しがいがあります。
逆にこのLINEを活用しない企業はコミュニケーションにおいては負けていってしまうのではないかなと思っています。
── 御社では、CEMを推進する上でLINEの使い方をどのようにご提案することが多いですか?
倉橋:メルマガなどは一斉送信なので、やはり個人の悩みやニーズに関係ない一方的なコミュニケーションになりがちです。
個人に合わせたコミュニケーションによってエンゲージメントは大きく変わってくるので、提案の段階では、そういったところの重要性を踏まえてどのようなコミュニケーションを設計すべきかをお伝えします。
── 老舗の大企業も多くクライアントにいらっしゃると思いますが、そういった企業さんもLINEを使うようになってきているのですか?
倉橋:そうですね、利用される企業さんも増えてきてはいます。ただ、LINEの活用にあたり、大企業様の場合はハードルが高いところも残っていることも事実です。
TwitterなどのSNSを活用するときに企業にとって「炎上対策」が重要となってきます。上手に活用される企業さんがたくさんいる一方で、炎上を恐れて一歩踏み出せない企業も多くおります。SNSを活用し、マーケティング展開をすることで企業価値を上げていくことに広げていくためにガイドラインを整備し、新しい展開へ目線を向けてほしいと思っています。
例えばお店での体験であれば、その洋服を作っているメーカーに対してだけでなくその店員さんに対して意見や声が集まりますよね。企業さんが自分たちの商品を卸しているのですけど、店頭で販売すれば当然お客様の意見はお店側に集まっていくんです。
通販だとダイレクトに販売をするので、そこでお客様の声を聞けるっていうメリットもあるぶん、お客様に対する接客に対してやっぱり怖さもあります。
特にSNSだと万人に知れてしまう危険性があるので、そこまでポジティブにSNS活用を攻めてらっしゃる企業はまだまだですし、慎重にならざる得ない状況もあるとも思います。
LINEに関しては、メルマガと同様にクローズドな部分とオープンな部分がありますが、SNSの位置づけに捉え及び腰になる企業もありますが、反面、クローズドの活用をしたいという理解も大きく広がってきていると感じています。
── LINEをうまく活用できている企業に共通していることはありますか?
倉橋:受け取る人たちのことをきちんと想像できて、クローズドの環境で人に寄り添ったコミュニケーションをしている企業さんは人気がでていますし、上手だなと思います。
例えばアンケートをもとに個人へのニーズに答えていく企業さんや、ちゃんと人っぽいコミュニケーションができている企業さんなどは、しっかりとLINEを有効活用できていると思います。
── ユーザーの感度も上がってきていると思うので、一斉配信っぽいメッセージを送るともう見られなくなってしまうリスクも高まっていますよね。
倉橋:そうですね。ユーザーの立場からすると、見ないようになってきていると思われます。
ユーザーに寄り添うということが必須条件になってきてはいるのですが、投稿内容の転用ってとても多いのです。運用コストを下げたいという気持ちもわかりますが、どうせやるならもう少し手間をかけてかけて、効果の最大化を目指していただきたいです。
── パーソナライズメッセージの重要性は理解しているが、コストがネックという企業さんも多いですよね。
倉橋:日本企業は非常に真面目な運営をしていて、運営をやり始めたらやめられないと考えている企業が多いです。SNSの運用にしても、やり続けないといけないとか、月に何回必ず投稿するんだとか、それが積み重なって業務がどんどん増えていくケースが多いです。
そうではなく、ちゃんと評価指標を決めて、効果がないなら一旦やめよう、といった柔軟なジャッジができることこそ大事だと思うのです。
毎回毎回パーソナルなメッセージを書こうと思ったら苦労すると思いますが、1回やってみて反応が変わったら続けよう、という気軽さがあってもいいんじゃないかなと。
Facebookやインスタ、Twitterなどあれもこれもとやっているとパーソナライズどころではなくなってきますしね。色々気軽にやってみて、優先順位をつけるといいと思います。
5. LINE運用で悩む企業へメッセージ
── 最後に、LINE活用に悩む企業へ向けて、メッセージをよろしくお願いします。
倉橋:コミュニケーションの変化にどれだけついていけるかが明暗を分けると考えています。柔軟に、個人が気持ち良いと思うようなコミュニケーション設計をしていくことが大切です。
また、海外でスタンダードとされている手法だったり、最新の技術を試してみたいという気持ちもあるとは思いますが、一般のユーザーに身近なLINEというツールを使ってどこまでできるのかをしっかり試行錯誤することに非常に価値があると感じています。
今日のインタビューの中でお伝えした通り、LINEの活用はある種、ほとんどの業界で競争参加への必須条件になっていると思っています。もし、これを読んでいただいている方の中で、トライすることへの心配があるような場合は、ご相談いただければと思います。
今日はありがとうございました。
■株式会社ペンシルについて 企業のウェブ戦略を成功に導く研究開発型のウェブコンサルティング専門会社。コンサルティング・プロモーション・システム開発・制作・運用・分析/解析まで、デジタル領域の全てを一気通貫で担う。独自の視点から実験や研究を重ね、研究結果によるノウハウをもとにクライアント企業のウェブサイトを分析し、ウェブからの売上や成約をアップさせるためのコンサルティングを実施している。 公式サイト:https://www.pencil.co.jp/ |